シリア紛争、始まっている紛争“後”〜甚大な戦禍の代償と過酷な現状〜

シリア紛争、始まっている紛争“後”〜甚大な戦禍の代償と過酷な現状〜

文化

2011年3月の内戦開始からもうすぐ7年が経つシリア。
世界の目は紛争“後”に向いていますが、シリアの状況は過酷です。
今回は、そんなシリアの現状やワールド・ビジョンの取り組みについて、
3ページに分けてお伝えしたいと思います。

(執筆:ワールド・ビジョン・ジャパン 浅野恵子)

紛争により多くを失ったシリア人の過酷な現状

シリアにとって2017年は、停戦合意の発効や緊張緩和地帯創設など紛争終結に向けたプロセスが本格化し、紛争“後”について語られる場面が増える年となりました。

しかし、6年以上におよぶ紛争で、人口の半分以上が難民/避難民*となったシリアの状況は過酷です。世界銀行によると、GDP(国内総生産)は紛争開始前の2011年から2015年の間に63%減少、同時期の輸出額は92%減少し、2010年には国内総生産の30%だった国の借金(公債)は、2015年には150%という比率まで上昇しました。2010年から2015年までの間に毎年約50万ずつ職が失われた結果、シリアの就労人口の4人に3人は経済的価値のある活動に関わっておらず、78%とも言われる若者の失業率はとりわけ深刻な問題です。

*500万人以上が難民として国外へ逃れ、600万人以上がシリア国内で移動を余儀なくされ、避難民として生活を送っています。

財政危機に陥ったシリア政府は、この状況を乗り切るため人々の生活必需品の供給を支えてきた補助金を大幅にカット。その結果、2011年から2015年の間に燃料の価格は10倍、米や砂糖の価格は2.3倍にはね上がり、人々の生活の苦しさに追い討ちをかけ、今、シリア人の10人に6人は深刻な貧困状態にあると推測されています。

経済的損失の増大を食い止め、
再建へとつなげていく道を考える

世界約100カ国で子どもたちのために支援活動を行っている国際NGOワールド・ビジョンは、2016年3月「子どもが払う戦禍の代償 -シリア紛争5年-」という報告書を発表。紛争がシリアと周辺国(レバノン、ヨルダン、トルコ)にもたらした経済的損失を2,750億ドル(約30兆円)と推計し、紛争下で成長する子どもたちの未来に対して警鐘を鳴らしました。

このレポートでは、経済的損失を構成する要素として以下の4項目を挙げています。

①紛争がなければ享受できたであろう“失われた”経済成長
②紛争による直接的な費用負担(軍事費、難民受け入れ費用、人道支援費など)
③紛争による間接的な費用負担(紛争費の増大により投資減少を余儀なくされた教育、
医療、社会基盤など開発の機会損失)
④紛争により破壊された教育や医療インフラなど、経済・社会的な損失

シリア紛争“後”を語ることは、まず、経済的損失の増大を一刻も早く食い止めること、そして、生まれてしまった損失をどのように埋め、再建へとつなげていくかを語ることであるとも言えるのです。